1/1ページ目 好きな人と結ばれて、初めて一つになれて それは女として生まれたものが、幸せになれたんだと実感できる瞬間。 泣いて幸福感を味わって、これからこの人に添い遂げるんだと心に決める人も少なくない そうやってこの行為に充実感が与えられていくのだろうか 大抵の女の子たちは、 嬉しかった 幸せを感じた と涙を流しながら互いに抱き合って愛を確かめ合うのかもしれない だけど、私にとってそんなもの ただの淡い期待と甘い想像でしかなかった 互いに好いているからこそ、求め合って愛を囁いて、 そんな幸せはどこにもなかった ただそこにこびりついているのは彼らに対する罪悪感と自分への嫌悪感 * 床はひんやりとしていて火照った身体を冷やすには充分だった 「あつい」 「それはどっちの?」 「暑いし熱い」 私の言葉に、阿修羅が口角を少しだけ上げた。他の人が見ても分からないだろうけれどこれは、阿修羅が私だけに見せてくれるようになった小さな笑顔。内心嬉しいのだけど、本人は気付いていないようなのでそれを教えるともう笑ってはくれなくなりそうなので阿修羅には隠している。 「マカも、熱い」 熱っぽく呟かれるものだからお腹の底がじんと疼いてしまう。私が顔を背けると阿修羅はまた小さく笑った。 「もう、一回」 「や、だめ」 「お願い」 私の上に重なる彼の体温は普段よりも高くてこの時だけは人の温もりを感じられる すでに一度求められた後だったので火照った身体はさらに熱を上げた 突然求められた時、私は鬼神であるはずの彼をすんなりと受け入れた 彼も自分の体に起こる変化に戸惑い、受け入れられずどうしたらいいのか分からなかったんだと思う。和らぎ始めた己の黒い波長、訳の分からない感情。 切羽詰まっていたのは分かっていたし、そのベクトルが当然私に向くことも。彼を拒んでしまえば、また以前のような荒々しく狂気を刻み、人間に怯え、殺すだけのただの鬼神に戻ってしまいそうだったので放ってはおけなかった。 私を抱くようになってから彼の波長は安定し狂気が薄らぎ始めた。 これで良かったんだと思う。 阿修羅にとってはこの行為が、唯一心を落ち着かせられる時間なのかもしれない すしとりと汗ばんだ肌にいくつもキスを落とされ、恥ずかしさに身を捩れば阿修羅は満足そうな顔をした 私の額にさらりと落とされる彼の黒髪が、行為の始まりの合図だった 私がそれを拒むことはない * 普通の女の子なら、嬉しさでいっぱいになったり幸せを感じたりするのかもしれない でも私は違う 行為の後は気持ち悪くて気持ち悪くてとにかく気分が悪くて吐きそうになる。自分が大嫌いになるし訳もなく死にたくなる。 阿修羅が嫌いなんじゃない。むしろ好きだけれど、何故かこうなってしまうのだ。 (皆が皆、幸福感を得られる訳じゃない) 思い人と身体を重ねることができたって幸せで一杯になんてなれない。それどころか死にたくなるなんてどうかしてる 分かってはいてもどうしようもない 重たい足を引きずり家に帰ると、トマトスープのいい香りが出迎えてくれた。晩ご飯の仕度をしていたソウルがおかえりと声をかけてくれる これが日常 私がソウルのいないところで行っていることは非日常なのか これが当たり前の光景なのだとしたら なのだとしたら? これが当たり前の光景だった 変えたのは私だ 「マカ?」 「あ、ただいま」 「白い顔してるけど大丈夫なのかよ」 「うーん。身体が怠いし重いし、風邪なのかも」 「…そうかよ」 ソウルは私が隠し事をしていることに気付いてるかもしれない でもこれでいいんだ 当たり前が日常で 日常が当たり前で 当たり前が幸せ ああ吐きそう いつからこんな身体になったんだろう 阿修羅にも、ソウルにも罪悪感を抱いてしまう。当たり前のように接して幸せそうな顔を装って、そうやって自分を偽っては彼らを騙しています。 死にたくなるのを、吐きそうなのを我慢して当たり前のフリをしています もし幸福感でいっぱいになれたのなら、私は堂々と「好きな人がいます」と宣言できたのかもしれない でもどちらかなんて選べないのだ 私にとって二人とも、大切な存在になってしまったから この日常と非日常をいつまで続けられるのでしょうか . [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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