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□甘い夜はこれから

「餓鬼はあんまり好きじゃねえな」

「そう、なんですか…」



放たれた一言に千鶴は酷く打ちひしがれていた
とびきりの破壊力を持ったその言葉にどう返事を返せばいいか分からない

(私は…)



この地に移り住んでから半年経つが未だに夫婦の契りを交わさずにいる。
元々自分の体つきに自信がある訳では無くむしろ、その乏しい女の色気とやらに諦めを感じていた

(私は土方さんが今まで相手にしてきたような綺麗で艶のある女性には到底足下にも及ばない。だけど…)

千鶴は鼻で笑われるのを覚悟で聞いてみたのだ




「歳三さんは童とは程遠い様に見えますが子供はお好きですか?」

遠回しに、子供が欲しいと思いますか?と


「程遠いってどういう意味だよ」
「いえ、歳三さんが子供の相手をしているのを見たことがなかったので…」

すると土方は「総司じゃあるまいし…」とため息をついた後眉間に川の字の皺を作って答えたのだ。



(子供が欲しいなって思ってたのは私だけだったのかな…そもそも歳三さんとの子供が欲しいだなんて、
二人でこうして暮らせるだけでも幸せだっていうのに…私欲張りになっちゃったな)

はぁ
肩にたすきを掛け直すと溢れたため息にも気付かず千鶴は炊事を始めた









「晩酌しましょうか?」
「今日はいい。なんだか眠くてな」
「そうですか。それではお布団敷いてきますね」






それからしばらくして寝支度を済ませ灯りを消し布団に入る、が。



「…おい、なんでそんな離れたところで寝てやがる」

千鶴がいるのは布団の端で掛け布団がかかるギリギリの位置だ。いつもなら二人でくっついて蝦夷の寒さを補う様に互いの体温で温まりながら寝るのに今はその熱を感じられない

「そうですか?普段と変わらないと、思います、けど」
「…そんなことない、と本当にそう思ってんのか」
「きゃっ!」

千鶴の腕をぐいと引っ張り無理矢理腕の中に閉じ込める。逃げようと必死に抵抗してくるので足をがっちり絡めて逃げられないようにしてやれば、千鶴は観念し大人しくなった

「なんか言いてぇことがあるんだろうが。はっきり言ってもらえないと分からねぇ。てめぇの女が暗い顔してるっつーのに気付かない野郎がいると思ってんのか?」
「すみません…」
「そんなに俺には喋りたくないか?頼りない旦那か?」
「そっそんなことないです!歳三さんはとっても魅力的です!」
「(魅力的…?)なら言えるよな?」
「うっ…」


すると千鶴は渋々頷いた


「歳三さんは子供が好きですか?」
「ああ?昼にも似たようなこと聞かなかったか?」




そこで土方ははたと気付く
そういうことか。

土方の着物の合わせをきゅっと握り不安そうな瞳で自分を見上げる千鶴が途端に可愛く見え理性が揺らぐ


「…ねぇよ」
「え?」
「構わねぇ、って言ってんだ。お前との餓鬼なら」
「……!」

千鶴の頬に一気に朱がさす。そんな愛しい妻が自分の腕に収まっているのだから土方はニヤリと意地悪さと優しさを含ませた笑みを浮かべた



「欲しいんだろ?…俺だって鬼じゃねえ、他人の子ならうざったくて煙たがるところだかお前との子なら話は別だ」
「なら、なんで…」
「俺はこんな体だ。いつ千鶴の前から消えちまうか分からねぇ。だから一人留まるお前に子供という存在で俺から縛りたくなかった」

すると千鶴は目を大きく見開いた

「そうだったんですか…私てっきり、幼児体型の自分なんか相手にされてないんだって…」
「馬鹿、同じ布団で寝る俺の気持ちを考えてみろ。毎日生殺しだ」
「生……ええと、そうですか…よかっ、た」

気丈そうに振る舞っているが千鶴の声は震えている。おそらく先程の土方の言葉を自分の中で必死に溶かしているのだろう

「千鶴…お前は…」

「いなくならないで、なんて言いません。…歳三さんで縛ってください。歳三さんとの子が、歳三さんがいたという証になるんです。私はそれだけで生きていけるんです」

「………そんな可愛いこと言うな」





しんみりとしてしまった様に思えるがすでに土方の理性はきゅんきゅんし過ぎで限界だった!



(本人もこう言ってることだし、もう我慢しなくてもいいんだよな?)




甘い夜はこれから





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