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□最恐の月

重い瞼を持ち上げれば視界いっぱいに広がる見慣れた天井
怠い身体を叱咤し無理矢理上半身を起こす

(急いで着替えてからお米炊かなきゃ!)


ここ最近雨続きだったのが嘘のように本日は青空に恵まれ、連日の鬱蒼とした気分が晴れ渡る様な清々しい朝だ

いつものようにおかず奪還戦争が繰り広げられる中、広間の隅で斎藤はいつにもまして無口だった
箸を口に運ぶその動作はひとつひとつが遅く、まるで腕に重りを付けているかの様だ
原田が怪訝そうな面持ちでその顔を伺う

「どうしたんだよ斎藤?全然箸つけてないじゃねーか」

すると斎藤は誰に問うでもなくぼそりと呟いた

「俺は…何か雪村の気に触るようなことをしてしまったのだろうか」

「はぁ?いきなりどーしちまったんだよ」

斎藤の話によると、今朝は自分と雪村の二人で朝食を作ったらしい。その際雪村は普段より口数少なく不機嫌な顔をしたままだったという

「…何かしちまったんじゃねーか?」

「……」










夕食の時間



「どうしたんだ平助、そんな暗い顔して」

「…俺千鶴に何かしちまったのかな」

「今朝斎藤も同じこと言ってたぞ」

「うーん…なんてゆうか…アイツピリピリしてんだよ」

「ピリピリ?」

「左之さんは昼の巡察に出てないから分かんねーと思うんだけど、今日のはすごかったぜ」

「なんだよそりゃまた」

「今日は千鶴を同行させる日だったから連れてったんだけどさぁ…いやー引き締まった巡察だったぜ」

「ますます意味が分からねぇな。それとどう千鶴が関係してんだ?」

「それがさぁ…」

千鶴が同行するだけで随分和やかになる雰囲気が一転、今日は緊張感のある巡察だったという。
普段なら他愛もない会話をしながら市中を巡るのだが今日に限って隣を歩く千鶴は無口だった。地面を睨みながらずんずんと歩みを進めその背後からは禍々しく殺気を放っている



どうしたんだ千鶴
なにがあったんだ千鶴
俺らを癒してくれるあの優しい笑みはどこへ消えてしまったんだ



「あのさ、千鶴…」


「なんですか?」



ぎろり、と睨まれた



聞きたいことは山々あったが千鶴の雰囲気がそれを許さず、重々しい空気の中巡察は終了した



「本当かよ。どんな時でも嫌な顔一つしないあの千鶴が…」

「だろ?やっぱなんかおかしーよな」

「だな…こりゃ本人に聞いてみるしかねぇな」









「千鶴、今いいか?」

部屋を訪ねた原田を千鶴は快く通した

「夜分に女の部屋に入るなんて真似あまりしたくなかったんだがちょっと話がしたくてよ」

「そんなお気になさらないで下さい。それでお話とは…」

「単刀直入に聞くが…俺らが何か気に障るようなことしちまたか?
斎藤と平助の野郎が、千鶴になんかしちまったんじゃねーかって暗い顔してたからよ。」

「えっ、そうなんですか!?どうして…」

千鶴は首を傾げる。その姿に二人が言っていたような覇気などは一切感じられない

(自覚ナシ、か…)



「確かに、昼間は不機嫌だったって聞いたんだがなー…」

「昼間?…昼間………あっ!」

頭を捻っていた千鶴が弾かれた様に顔を上げ頬を染めた

「笑わないで、聞いてくれますか…?」

頷くともじもじしながらも話し始めた。




「あの、私…今朝から……………………………………………月のものなんです…」

長い沈黙後に飛び出した一言に原田は息を飲んだ。それから思い出した事実にため息をつきたくなった。千鶴は女だった…
「悪い、気ぃ使ってやれなくて」

「そんな、皆さんに不愉快な思いをさせてしまった私が悪いんです!明日斎藤さんと平助君に謝りにいきます」

「いーや、俺らが悪いんだ。女の体調一つ気付いてやれないなんて情けねぇ。今日のことは俺から適当にアイツらに言っておくから千鶴が気にするこたぁねぇよ」

「でも」

引き下がらない千鶴をなだめなんとか落ち着かせるのだった







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