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□理想の女

カッコイイ原田はどこにもいないので注意








月明かりに照らされて自分の着物を派手に濡らす赤が浮かび上がる。



(こりゃ酷ぇな)




屯所の門をくぐるとぱたぱたと聞き慣れた足音が近づいてきた

「お帰りなさい原田さん」
花が咲いたような笑顔を向けてくるのは千鶴だ

「もしかして俺が帰ってくるのを待っててくれたのか?」

「はい、そうなんですけど…って、どうしたんですかその血!どこかお怪我を…」

「いや、返り血だ。それよりお前はもう寝ろよ。寝坊したら土方さんにどやされちまうぜ」

頭を撫でてやると千鶴は困ったように笑った

「部屋まで送る」

「えっそんな!悪いです!原田さんは早くお休みになってください」

「いいんだよ。男が女を送るっつってんだからこういう時は甘えるもんだ」

「…すみません…」

申し訳なさそうに肩をすくめる
そして俺も千鶴を部屋に送り届けたあとすぐに自室に戻り体を休めた。















翌日





鼻孔をくすぐる旨そうな香りに目を覚ませば、辺りにふんわりと漂う米の炊けた匂い。
つまみ食いでもしようかと勝手場へ向かうと自然と入口の前で足が止まる
というか動けなくなった

トントントン…と規則正しい動きで食材を刻む音
ぐつぐつと何かが鍋で煮えている音

その音ひとつひとつが
朝の音だ

その中で忙しく働く千鶴に目が釘付けになった

心臓がやけに煩い



(これはっ…)




「おはようございます原田さん。今日は早いですね」

「お、おはよう千鶴。旨そうな匂いがするから目ぇ覚めちまってよ」

いきなり話しかけられてさらに心拍数が上がる。



なんだこの、夫婦(メオト)みたいな会話は…







…夫婦!?





「起こしてしまってすみません!今日は皆さんが朝から出掛けると伺ったので早めに朝食の支度をしておこうと思ったんですけど…」

「いいんだよ、むしろつまみ食いしに来た俺を叱ってくれ」

俺が冗談めかして言うと千鶴は俺の心を読み当てたようにふわりと笑った

「私たちの会話、まるで夫婦みたいですね」

同じ風に思ってたのか。思わず口の端が持ち上がる。というかついニヤけてしまいそうになった。だってコイツがこんな可愛いことを言いやがるからだ

「…そうか、千鶴は俺のことは旦那として見えてたってことなんだよな?」

すると千鶴は途端に「ぼんっ」という効果音が上がりそうなくらいに顔を真っ赤に染めて否定する

「違います!あの、可笑しなこといってすみません…」

「ははは!照れるなって。ほら、味見させてくれるんだろ?」

「もう…!少しだけですよ?」













「本当に出来た女だよなお前は…」





それはまるで俺が思い描いていた生活そのものだ
朝起きれば飯の匂いが漂っていて、昼になれば庭先で洗濯物がぱたぱたと風に揺れており、夜になると仕事から帰った俺を良い人が出迎えてくれて。たまには酌なんかしてくれる
そうして愛する女と共にのんびりとする平穏な暮らし

今まさにその暮らしに当てはまっているんじゃねーか?

ふと考える。その好きな女ってえのは…
脳裏に過るのは何故かたすき姿の千鶴…













自覚しちまえばもうこっちのもんだ。




「ただいま。いい子にして待ってたか…?」

こうして毎度俺の出迎えをしてくれる千鶴の頭をぽんぽんと撫でると千鶴は不服そうに頬を膨らませた

「あー、つい癖でな。子供扱いして悪かったよ」



本当に、



(理想の女)





――――――――
千鶴に翻弄される左之の話を書きたかったのに…いつの間にか大人の余裕を魅せる左之…

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