広島新交通システム橋桁落下事故



 広島新交通システム橋桁落下事故(ひろしましんこうつうシステムはしげたらっかじこ)とは、当時建設中であった広島高速交通広島新交通1号線(愛称アストラムライン)の工事現場で、橋桁が落下し、作業員および市民が多数死傷した事故である。


 1991年3月14日午後2時5分頃、広島県広島市安佐南区上安2丁目(広島高速交通広島新交通1号線上安駅予定地付近)で、前日仮設置していた長さ65m、重さ43tの鋼鉄製の橋桁を据え付ける作業中、据え付け作業中の橋桁が10m下の道路(広島県道38号安佐安古市線(現・広島県道38号広島豊平線))に落下する事故が発生した。

 この事故で、橋桁は並行する県道下り線を赤信号で停車していた乗用車など11台を直撃し、橋桁の上で作業していて、下に投げ出された作業員5人と橋桁が直撃した乗用車を運転していた市民10人が死亡、8人が負傷するという大惨事になった。乗用車の中には高さ50cmまで圧縮されたうえに、火災が発生した乗用車もあり、原形を留めない状態になった。運転席が押しつぶされ、100Gを超える衝撃を受け全身挫滅で即死した者もいた。これは航空機の墜落事故並みの衝撃である。これら乗用車に閉じ込められた負傷者8名が救い出されたのは、橋桁がクレーンで取り除かれた2時間後であったが、死者は全員がほぼ即死の状態であった。

 この模様はマスコミが橋桁に押しつぶされた乗用車の惨状を伝えたため、衝撃を与えた。

 広島県警は業務上過失致死傷の容疑で、広島市役所と作業を請け負っていた橋梁メーカー「サクラダ」(本社:千葉県市川市)を家宅捜索した。その結果、作業に以下の不備があったことが判明した。

 事故現場は県道の上(片側二車線の中央分離帯)であったため、架設用地を十分に確保できなかった。そのため部品を橋脚上で橋脚に直角方向に移動したあとで、各橋脚に取り付けるために降下させる「横取り降下工法」と呼ぶ方法を採用していた。この工法ではいったん仮受台に置いた上でジャッキ操作を繰り返しながら降下させ、最終的には橋脚上の沓座と呼ばれる台に固定するものであった。前日までに仮置きが完了しており、事故当日は3つの橋脚に置かれたジャッキを交互に降下したうえで台座に固定する設置作業をしていた。

 しかし仮受台のH形鋼は3本置かれていたが、作業箇所のうち西側橋脚の南側にあったH型鋼は井桁状ではなく同方向に一列に積む作業ミスをしていた。そのため1本のH型鋼を抜いて仮受台の高さを調整するために交換作業をしていた際、過重が不均衡になったため、橋桁の南側の底面が深さ6.6mm、300mmの範囲が座屈した。そのため橋桁の重量が南側に偏ったことから、主桁を支えていた3台のジャッキのうち2台が耐荷力を超えた。その結果、2台のジャッキの受け台のH型鋼がほぼ同時に座屈し、バランスを失い橋桁が半回転しながら下に落下した。

 また橋桁と橋脚には吊り足場が設置しており、そこで足場の隙間を塞ぐ作業をしていた作業員1人も、ジャッキ操作をしていた作業員4人と一緒に落下した。直前に作業員が「ジャッキが異常に重たい」と発言しており座屈の予兆があったが、後述のように現場では誰も気が付かない体制であり、見逃されてしまった。

 元請のサクラダの工事統括責任者(工事部長)は、降下作業の予定を知りながら現場にいなかった。また工事現場代理人はジャッキの設置方法の注意をせずに立ち去り、代理人補佐もジャッキ下げの指示を与えただけで下に降りてしまい実際の現場監督は二次下請けの職員に任せていた。しかし、この職員は1ヶ月前まで事務職員であり、現場経験がなく建設の技術的知識は皆無であったことから、ただ漫然と見ていただけであった。

 事故現場を担当した三次下請けの建設会社は橋桁の架設工事の契約は今回が初めてであった。実際にジャッキ操作していた4人のうち、2人はとび職であったが現場作業にブランクがあったうえに橋の架設工事を行った経験がなかった。残りの2人は数ヶ月前までは眼鏡の加工販売に従事していたという初心者であった。そのため重量物のジャッキ降下という危険作業でありながら素人同然の作業員に任せていた。また、H形鋼の積み間違い(橋桁を受けるためには、完全に強度不足)という、致命的な作業ミスをしていることに気付く者は誰一人いなかった。この背景には、アジア大会準備のために広島市内各所で建設工事が行われており、深刻な人手不足のため熟練した作業員が不足していたこともある。そのため頭数だけそろえた素人作業員が危険な作業をしていたことになる。

 このように工事の請負が元請や下請けなど階層構造になっていたうえに、施工管理体制にも問題があった。本来作成されるはずの作業計画は存在せず、作業者に手順の説明すら行われていなかった。また施工方法の検討も不十分であり、転倒防止用のワイヤを張らずに桁を単独で降ろすなど、万が一の事態に対する落下防止策などの備えが無かった。

 広島市が、一日1万5千台の通行量があるうえ、谷間にある地勢から迂回路がほかにはないなどとして、通行規制をすると交通渋滞が起きると主張したため、広島県警は規制を行わないことを容認し、県道の通行規制をしていなかったことから、第三者の一般市民が巻き添えになった。また、現場のこうした杜撰な工事管理体制を見過ごしていたことも事故の一因であるといえる。

 関係者に対する責任追及は、施工業者が業務上過失致死罪で起訴され刑事事件として立件された。

 広島地裁は、1996年3月に現場代理人に禁錮2年6月の実刑、統括責任者に禁錮2年執行猶予3年、現場代理人補佐に禁錮2年6月執行猶予4年の判決を下した。しかし現場で実際に監督していた職員は「知識・能力も無く、連絡などの見張り役にすぎなかった」と過失責任を否定、無罪になった。また、業者に対しては、指名停止や営業停止などの重い行政処分が課せられた。なお工事を発注した広島市の責任については、事故の遺族が起こした民事訴訟の1審判決では予見可能性があり注意義務があったことを肯定し、損害賠償責任があることを認めたが、控訴審で原告側が迅速な裁判を求め、市に対する請求権を放棄したため、法的拘束力が消滅した。

 広島市は工事中は交通規制を行わないとした方針を転換し、迂回路を設置して全面通行止めにしてクレーンで直接設置する工法に変更した。また、全国的に危険が予想される現場では交通が遮断する措置が行われることになったほか、作業員の安全教育が徹底されるようになった。

 落下した橋桁は撤去のうえ廃棄処分となり、事故現場付近の橋桁は新調された。また、現場付近となった上安駅南階段下に翌年3月に慰霊碑が建立された。事故が発生した日には毎年、広島市長、副市長(以前は助役)、道路交通局長の3人が訪問し安全を誓っている。


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