ジョエルマビル火災はブラジルのサンパウロにある25階建てのオフィスビル、ジョエルマビルにて起きた火災。1974年2月1日に12階のエアコン室外機のショートが原因で火災を起こし227名の死者を出す大惨事となった。
1970年代、ブラジルでもビルの高層化が進んでいたが、1969年に建設が始まり1972年に完成した25階建てのジョエルマビルもその1つであった。構造は下層階が駐車場フロアになっており、その上にオフィスの入った建物がある構造になっている。真ん中がエレベーター棟で、その左右にある棟のうち平行四辺形型の棟がノースタワー、三角形型がサウスタワーになっている。冷暖房が完備され、入居テナントは銀行等の企業が多くを占めるなど、近代化されたジョエルマビルはサンパウロでも一際目立った存在であった。
ところが、現在の基準で考えると大きな欠陥があった。非常出口がなく出口は建物中央にあるエレベーター棟の階段およびエレベーターのみだったのでこれらが使用不可になった場合、脱出の手立てがなくなる造りであった。また、内装に使用されていた素材が不燃性でなく、間仕切りが可燃性の木材や合成樹脂であり、かつカーテンや絨毯といったその他の内装も燃えやすい素材だったので万一の火災の際は火の回りが早かった。しかも合成樹脂は燃えると有毒ガスまで発生する危険性があった。スプリンクラー設備はおろか防火扉や防火シャッター・防煙壁といった設備が不十分で延焼を食い止めるのが難しく煙が充満する危険性があった。
このように防災設備が不十分のため、ひとたび火災が起きれば大火災になる可能性があった。そして完成してからわずか2年後、大火災を引き起こすことになってしまった。
1974年2月1日、多くの会社員が出勤していた午前8時50分頃、ノースタワー12階の窓上部に設置されていたエアコン室外機がショートして出火。炎はやがて窓を破壊し、12階の可燃性の内装を燃やしながら建物中央のエレベーター棟に延焼したところで階段の吹き抜けを通じて上の階へ延焼した。階段が煙突の役目を果たしてしまい、かつ、唯一の避難経路が早々に使えなくなってしまった。
しかし、この時点では反対側のサウスタワーまでは延焼していなかった。ところがこの日は強風が吹き荒れており、ノースタワー12階の窓から激しく燃え盛る炎は強風に煽られてしまい、やがて14階の窓をも破壊すると火の勢いはさらに増してしまい、ついにサウスタワーにまで延焼。そしてサウスタワー側の窓伝いからも次々に延焼してしまった。こうして燃え上がった炎は燃えやすい内装を次々に燃やし、さらに両棟の窓伝いから次々と延焼していった結果あっという間にビルは炎と黒煙に包まれてしまった。
消火活動を始めた時にはすでにビルは炎と黒煙に包まれる地獄絵図と化していた。多くの人が屋上に避難するも、屋上にまでエレベーター棟の出入り口を通じ、火がものすごい勢いで迫っていき、屋上は炎に包まれながら逃げ惑う人々でごった返していた。その上、ジョエルマビルにはヘリポートがないため屋上からの救出も困難であった。その結果ついに、最初に出火したノースタワーを中心に逃げ遅れた人々が飛び降り始めたのである。消防士が「CALMA（落ち着いて）」、「NAO SALTEM（飛ばないで）」等のメッセージを大きな布に書いて伝えたのをはじめ、多くの地上の人々が飛び降りるのを思いとどまるように被災者に伝えたものの20名が転落死してしまった。中にはハシゴ車のハシゴを使って避難中の被災者を上から飛び降りた被災者が直撃し、一緒に転落してしまう二次災害まで発生した。
この火災は午前中に発生したことから鮮明な映像が残されており、ジョエルマビル火災の悲劇を残す結果となった。火は昼頃すべての物を焼き尽くし、勢いが弱くなった所でようやく鎮火した。この火災の死者は227名にも上り（179名及び188名説もある）、防火体制が不備な高層ビルは多くの死者を出す事例の1つとなってしまった。
この悲惨なジョエルマビル火災であるが、1組の母子が大きな奇跡を生んでいる。その母子は15階にいたものの、逃げ遅れ凄まじい炎と煙に襲われてしまった。母親は幼いわが子を抱きしめしっかり固定すると、15階から飛び降りたのである。母親は地面にたたきつけられ死亡したものの、幼い子供は抱きしめられた母親の体がクッションになり無事生還。絶望的な状況で、自分を犠牲にしてでもわが子を守った奇跡であった。
このような大火災を引き起こし、多数の死者を出したジョエルマビルであるが、築年数が2年という新しいビルのため改装され、現存している。
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