小説(テニスの王子様)

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「おっチビー!」
 部活後の片づけを終え、部室に戻ってきたリョーマに、待ち構えていた菊丸が抱きついてきた。
「ちょっ、重いっス、菊丸先輩」
 リョーマが抗議の声を上げるが、菊丸は一向に気にする様子はない。
「なあ、ニャンコの写真持ってるって、ホントにゃ?」
「はぁ…」
 菊丸の言葉に、溜息ともとれる返事をする。
「な、な、見せて」
「…分かったっスから、どいて下さい。このままじゃ見せられないっス」
「ああ、ごめんにゃ」
 言って、ようやくリョーマから離れた。
「ほら、早く〜」
 小さな子供のようにワクワクした顔で見つめてくる菊丸に、リョーマ今度こそ溜息をついた。
 ロッカーに置いてあるラケットバッグを探って、小さなアルバムを取りだした。
 写真が10枚くらい入る、小さなポケットアルバム。
 それを、菊丸に差し出す。
「これっス」
「サンキュー、おチビ」
 差し出されたそれを、菊丸が嬉々として受け取る。
 さっそく開こうとして、手を止める。
「しっかし、なんでアルバム?普通、生徒手帳に1枚とかじゃにゃいの?」
「最初はそうだったけど、菊丸先輩みたいに見せてくれって人が多いから、それに変えた」
「にゃんで?」
「…手帳がボロボロになるから」
「そっか」
 その答に納得して、アルバムを開く。
「うっわ、かっわいいにゃ〜」
 菊丸の言葉に、残っていた他のレギュラー達も写真の方に注目する。
 その様子に、リョーマがそっと息を吐いた。
(…本当の理由なんて、言える訳ないし)
 実際、見せてくれと言われることは多いので、嘘ではない。


 暫く写真を見て、はしゃいで気が済んだのか、菊丸がリョーマに写真を返して部室を出ると、皆が次々と帰っていき、今部室に残っているのは手塚とリョーマだけだった。
「部長は見なくても良かったの?」
「何がだ?」
「カルの写真」
「見なくても、この後、実物に会うからな」
 部誌に目を向けたまま、そう答える。
「持ち歩いてるのが部長の写真じゃなくて、ガッカリした?」
「別に」
 リョーマの言葉に素っ気なく答えるが、それが肯定しているのだとリョーマには解って、苦笑する。
(素直じゃないよね、ホント)
 自分の事は棚に上げて、リョーマはそんなことを思った。

 五分ほどして、部誌を書きあげた手塚が立ち上がる。
「待たせて済まなかったな。帰るか」
「うん」
 その言葉に、リョーマは座っていたベンチから立ち上がる。
 部室に鍵をして部誌を届けた後、二人は並んで帰路についた。



 一度手塚の家に向かい、夕食を済ませて、二人は越前家に来ていた。
「本当に誰もいないんだな」
「うん、皆の予定が重なるって本当に珍しいよ」
 リョーマの両親は日本に住んでいる知り合いに呼ばれて出掛けており、従姉の菜々子も友人達と旅行に行っていて、越前家はリョーマとカルピンだけになっていた。
 明日は学校は休みでも部活はある。
 それでも、滅多にない二人きりのチャンスを逃すようなことはしたくなかった。
「飲み物とか持ってくから、先に部屋に行ってて」
「ああ」
 答えて、リョーマの荷物を引き取って、手塚は二階に上がっていった。

 飲み物とお菓子を持ってリョーマが部屋に戻ってから、他愛無い話をしたり、時々、触れ合うだけのキスをしたりして過ごしていたが、カルピンが部屋に入ってきてからは、リョーマはカルピンだけを構っていた。
 カルピンとじゃれているリョーマを、最初は微笑ましく見ていたが、あまりにも手塚の方を見ないので、段々と苛つくような寂しいような気分になってきた。
 嫉妬なのか拗ねているのか、ハッキリと解らない自分の気持ちに、手塚は溜息をつく。
 それに気がついて、手塚から顔を逸らしたまま、笑う。
(ホント、部長ってカワイイよな)
 本人が聞いたら、眉間のしわを増やしそうなことを、リョーマは考えていた。
(でも、悪い気はしないな)
 手塚の様子は、それだけリョーマを想っているという証拠だから、とても嬉しい。
 手塚の様子に気づきながらもカルピンを構っていると、手塚が動いた気配があった。
「リョーマ」
 名を呼んで、手塚はリョーマの肩を抱き寄せる。
「何?」
「…そろそろ、俺にも構って欲しいのだが」
 その言葉に、リョーマがクスクス笑う。
「どしたの?素直じゃん」
「さすがに…これだけ放っておかれるとな…」
 言って、リョーマの頭に軽く口づける。
「ん〜でも、これも国光の為なんだよ?」
「リョーマ?」
 言葉の意味が解らず、顔を覗き込むと、リョーマは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「あと、10分待ってて。そしたら解るから。…ね」
 言って、手塚の頬にキスをして、また、カルピンと遊び始めた。
 何を言っても無駄だと思ったのか、手塚が小さく溜息をつく。

 リョーマの言葉通り10分程すると、気が済んだのか、カルピンは大きく伸びをした後、部屋を出て行った。
「お待たせ、国光」
 言いながら手塚の前に回り込んで、リョーマが抱きつく。
「自分から部屋を出たら、余程の事がない限り部屋には入ってこないよ」
「え?」
「構わないで放っておくと、いつまでも纏わりついてくんの。そうなったら、国光と二人でなんて過ごせないし」
「リョーマ、それは…」
 その言葉の意味は、手塚と二人の時間を確保する為…
「だから言ったでしょ、国光の為だって」
 答えて、チュッと唇に軽くキスをする。
 そして、側においてあったある物を手塚に手渡す。
 それは、リョーマの生徒手帳。
「開けて、中を見て」
 言われて開いてみると…
「これは…」
 一枚の写真がそこにはあった。
「すっごい貴重でしょ」
 そこに写っているのは、部活の休憩中だろうか、木陰で気に凭れて、珍しく眠っている手塚だった。
「その日、偶然だけどデジカメ持ってたんだよね」
 部活終了後、手塚の写真を撮らせてもらおうと持って来ていた。
 それが、思いもかけず珍しい姿に、隠し撮りしたのだった。
「これが、カルの写真を別にして持っている本当の理由。こんな姿の国光、他の奴になんて見せなくない」
 だけど、家に置いておかずに常に持っていたい。
 そう言って、リョーマが顔を赤くする。
「リョーマ…」
 その言葉に、手塚の顔が緩む。
「カルを構っていたのだって、少しでも長く国光と一緒にいたいからだし…」
 そこで一旦言葉を切って、リョーマが顔を上げる。
「俺の中の優先順位は、どんなことでも国光が一番なんだからね」
 告げて、ニッコリ笑う。
 大好きなテニスでも、一番は手塚なのだから、本当に手塚以上に優先するものは何もない。
「今からは、嫌って言うほど構ってあげる」
「ああ、ありがとう。リョーマ」
 言って、今度は手塚から口づける。
「俺の一番もリョーマだからな」
「そんなの、当り前」
 笑いあって、もう一度口づけを交わす。

 ちょっとした事で嫉妬したりすることがあっても、この位置は絶対に変わらない。


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