小説(テニスの王子様)

君がくれたもの・おまけ
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「どう考えても、手塚が一番危ないにゃ…」
 その言葉が切っ掛けとなり、河村寿司を出て、仲良く帰っていく手塚とリョーマを見送って、部員達の間で賭けが行われた。
「ところで、どうやって確認するにゃ?あの二人が正直に話すとも思えにゃいし…」
 菊丸の言葉も尤もで、この後、手塚がリョーマをただ送って行ってのか、それとも襲ったのかなんて、本人達が素直に言わない限り確かめようがなかった。
「それはやっぱり…ねぇ?」
 意味ありげに、不二が乾に目を向ける。
「そうだな。それしかないだろう」
「何?」
 二人だけで通じている会話に、菊丸が首を捻る。
「全員では多すぎるから…」
「レギュラーだけにしよう」
 不二の言葉を、乾が引き継いで言った。
「じゃ、ちょっと移動しようか」
 言って、レギュラー陣は近くの公園に移動した。
「それじゃ、説明するよ」
 全員の顔を見て、乾が切り出した。
「明日………」



 全国大会の翌日は、優勝のお祝いとゆっくりと身体を休めるために、部活は休みとなっていた。
 久しぶりにのんびりとした日の早朝、手塚家を訪れた者達を、母親の彩菜がにこやかに出迎えた。
「今ならまだ眠っていると思うから、どうぞ。今ので起きてしまうかもしれないから、急いでね」
 言われて、頭を下げて家の中に入っていった。
 向かうのは、二階の手塚の部屋。
 物音を立てずに部屋に入り、目の前の光景に、ニヤニヤする者・ノートを広げる者・目を逸らす者とに分かれた。
「これは、どう見ても…」
 不二が小声で呟く。
「だよにゃ〜」
 ニヤケ笑いを浮かべて、菊丸が答える。
 手塚家を訪れたのは、レギュラー陣。
 皆の見守る(?)中、手塚はリョーマを胸に抱いて眠っていた。
「こんなに人がいても起きないなんて、それだけ越前くんの側ではリラックス出来るってことなんだろうね」
 からかうような口調ではなく、しみじみと不二が言った。
「幸せそうな顔してるっすね」
 次いで、桃城が言った。
 手塚もリョーマも、普段では考えられないような、安らいだ、幸せ全開な顔をしている。
「あ」
 桃城達が顔を覗き込んだ時、二人が身じろいで、手塚が目を開けた。
 カーテンの閉められた部屋は薄暗いが、夏の朝なので見えないということはない。
 手塚が周りに視線を向ける。
「…え」
 状況に気がついて、ガバリと起き上った。
 それでも、リョーマを腕に抱いたままなのには、見ていた皆が思わず拍手をしてしまった。
「お、お前達…ここで何を」
 珍しく動揺した様子の手塚に、今度は失笑が漏れる。
「どうやって、部屋に…」
「それはだな、全国制覇のサプライズということで入れてもらったんだ」
 手塚の疑問に乾が答え、その答にガックリ肩を落とす。
(そんなに簡単に話に乗らないで下さい…)
 彩菜は意外とお茶目な性格のようだった。
「ん…なに?くにみつ…」
 身体を起こしたことで目覚めたのか、リョーマが目を擦りながら甘えたような声で問いかける。
「な、何でもない。もう少し寝ていていいぞ、リョーマ」
 そう答える手塚の声も、どこか甘さを含んでいる。
 リョーマが今の状態に気付かないようにそう言ったが、それは逆効果だったらしい。
「ん?」
 手塚の様子から何かを感じ取って、リョーマがゆっくりと首を巡らせる。
「え?」
 一通り見て…
「ええぇぇーーー」
 声を上げた。
「な、なんで、皆いるんスか!」
 驚いて、リョーマは咄嗟に手塚に抱きついた。
 元々手塚に抱かれていたので、更に密着するような格好になる。
「…ふむ、驚いて離れるのではなく、更に密着するか」
 呟いて、乾がノートに書き込む。
「ラブラブだにゃ〜」
 二人の様子に顔が熱くなった菊丸が、手で扇ぎながら言った。
「だ、だから、何で…」
「そりゃ〜あの後、お前が無事に帰ったかどうかをだな」
「え…?」
 その言葉に、リョーマが桃城に目を向ける。
「手塚がちゃんと送って行ったのか、君を襲ったのか、確認しに来たんだよ」
 答えたのは、不二。
「おそ…って…」
 不二の言葉に、リョーマが顔を赤くする。
「明日聞いても、二人とも答えてはくれないでしょ?だから、こうして見に来たって訳」
 言って、ニッコリ笑う。
「た、確かめるって…そんなの…」
 家に来たからといって、解るのか?と言おうとして、
「そんなの、一目瞭然でしょ」
 不二が先を越して言った。
 その言葉に、皆がウンウンと頷く。
 言われて、ようやく気がついた。
「あ…」
 二人は裸のままだったのである。
「それに、そ・れ」
 と指さされて目を向けると、そこには…
「………」
 それに先に気付いたのは、当事者の手塚。
 抱く腕を強くして、一応、隠そうとしたが間に合わず、リョーマもそれに気がついた。
「く、くにみつ」
「…すまん」
 名を呼ばれて、手塚は素直に謝罪した。
 リョーマの体に無数に散らばる所有の証。
「………」
 リョーマは手塚の胸に顔を埋めた。
 今更ではあるが、手塚がリョーマを隠すようにタオルケットを引き上げる。
「まぁまぁ、そんなに照れないで。僕らは嬉しいんだよ」

「「「「賭けに勝って!」」」」

 不二・乾・菊丸・桃城の声が重なった。

「お前ら…」
 手塚の肩と声が震える。
「今すぐ、全員グラウンド100周してこい!」
「えーーーー!手塚横暴!」
 菊丸が抗議の声を上げる。
「越前くんを持ち帰った君も悪いんだろ?お互い様」
「そうだな。一番悪いのは手塚だと思うぞ」
 不二の言葉に、乾も同意する。
 菊丸と桃城も頷いて、大石・河村・海堂は止める事が出来ずに付いて来てしまったので、顔を背けている。…が、手塚の味方をしようとはしなかった。
「ま、確認したかっただけだから僕らは帰るよ。この後は、心行くまでいちゃついてなよ。じゃーね」
 そう言って、不二はヒラヒラと手を振って部屋を出て行った。
「そ、それじゃ、俺達も帰るか」
 大石がそう言ったのを皮切りに、皆が逃げるように出て行った。
 慌てて、それでも彩菜には皆キチンと挨拶をして帰っていった。

「…帰った?」
 そっと顔を上げて、リョーマが訊いてくる。
「そうみたいだな」
 答えて、溜息をつく。
「みんなにバレちゃったね」
「そうだな。まぁ、牽制する手間が省けていいさ」
「…何、それ」
「さて、あいつらの許可も出たことだし、今日は一日中いちゃつくとするか」
 その言葉に、リョーマが笑う。
「国光がいちゃつ………ん…」
 リョーマが言い終わる前に、唇を塞がれた。
「嫌か?」
「嫌な訳ないでしょ。でも、服は着よ。彩菜さんが入ってきたらマズイでしょ?」
「それもそうだな」
 リョーマの言葉に、手塚も同意する。
「国光」
「ん?」
「おはよう」
 名を呼ばれて顔を覗き込むと、満面の笑みで挨拶をされた。
 それで、まだ挨拶をしていなかったことに気付く。
「ああ、おはよう。リョーマ」
 同じく笑顔で返して、もう一度口づけた。
「おはようのキス?」
「そうだ」
 笑って訊いてくるリョーマにまた口づける。
 それから暫く、二人は抱き合ったまま、キスを繰り返した。
 二人の甘い一日は、こうして始まった。



「う〜ん、いつ入ろうかしら?」
 手塚の部屋の前では、お茶を持ってきた彩菜が、入るタイミングを逃してしまって立ち竦んでいた。
「まだ、服を着てないだろうし…どうしようかしら♪」
 と、楽しそうなに彩菜は笑っている。

 母親公認の恋人同士になったことを、二人はまだ知らない。


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