小説(テニスの王子様)

日常の風景?
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 体を動かせば汗を掻くが、不快な暑さではなく、梅雨の様な湿気もない、比較的過ごしやすい5月。
 都大会を優勝で終えた青春学園中等部・男子テニス部は、より一層練習に励んでいた。
 土日も当然のように練習があり、それを嫌がるでもなく皆真面目に参加している。
 日曜の今日も朝から練習で、昼休憩の後は、ノルマをこなした後は自由な半自主練習となっていた。
「ふぅ…」
 部室近くの大きな木の幹に背中を預けて、その根元にリョーマが座り込む。
 汗を掻いてはいるが、それほど疲れた様子はなく、帽子を脱いでタオルで軽く汗を拭う。
 木陰はコート周辺よりも気温が低く、風が吹き抜けてとても涼しい。
「涼しい…」
 呟いて、傍らに置いていた、愛飲している炭酸飲料を口に運ぶ。
 炭酸特有の清涼感が体中に沁み渡る。
 コートに目を抜けると、ノルマを終えたレギュラーの数人が休憩の為に出てくるところだった。他の部員はノルマの半分、といったところだろうか。
 ちなみに、リョーマは一番に終わらせている。
「炭酸はやめろと何度言えば分かるんだ?」
 かけられた声に顔を上げると、いつ来たのか、部長の手塚がリョーマの側に立っていた。
 普段は生徒会業務と重なる為、最初から参加ということが少ない手塚だが、日曜の今日は最初から参加している。
「今は休憩中」
 練習中の水分補給には飲んでないんだからいいでしょ、と手塚の目の前で口に運ぶ。
 それを見て、再度注意するでなく、手塚は苦笑する。
「部長、ノルマは?」
「終わらせたからここにいるのだろう?お前と同じだ」
 その言葉に、リョーマが笑う。
「だったら、監督するみたいに立ってないで座れば?」
「…そうだな」
 言われて、リョーマの隣に腰を下ろす。
 座ると、風が手塚の髪を撫でてゆく。
「ここ、涼しいっしょ」
「ああ」
 答えて、手塚がクスリと笑う。
 その学校では珍しい表情に、リョーマは一瞬見惚れてしまった。
「な、何、笑ってるんすか」
 それを誤魔化すように、リョーマがぶっきらぼうに言う。
「ん?ああ、猫は居心地の良い場所を知っているものだと思ってな」
「…何すか、それ」
「猫だろう?お前は」
 言って、また笑う。
「特定の相手にだけ、気まぐれに甘えてくる猫だ」
「………」
 その言葉に、リョーマの顔が赤くなる。
 それに気付かないフリで、手塚もコートに目を向けて、小さく息を吐いた。
「…疲れてる?」
「生徒会が忙しい時に大会が重なったからな」
 と、手塚が肯定する。
「ふーん、珍しいじゃん、あんたが疲れたって認めるの」
「かもな」
 本当に珍しい言葉に、リョーマが手塚の方に顔を向けた時、不意に名を呼ばれた。
「リョーマ」
 部活中には決して呼ばない名に、リョーマが驚いた顔をする。
「炭酸を飲んでいたことを見逃してやるから、少しの間枕になってくれ」
「え?」
 言うと、リョーマが答えるより早く体を倒し、リョーマの足に頭を乗せた。
「え、え?」
(これって、膝枕…だよね?)
 突然のことに硬直したリョーマに構わず、横になった手塚は目を閉じた。
 眠っている訳ではないが、その表情はとてもリラックスしているように見える。
 そんな手塚を見て、リョーマも体の力を抜いた。
 手塚の頭に手を伸ばし、そっと髪を梳く。
 なんだか擽ったいけれど、なんだか幸せで…
 手塚の大きさに比べると、まだまだな自分の側で安らいでくれるのが嬉しい。
(風は気持ちいいし、ジュースは美味しいし、国光がいるし、なんか幸せだな)
 チラッと手塚の顔を見て微笑んで、リョーマも目を閉じた。
 練習再開までの短い時間の幸福に浸るために…

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