1/1ページ目 猛暑の夏休みの部活は、常よりも早くに始まる。 そうなると、時間を間違えて遅刻してしまう者もいる訳で… 「越前」 眉間の皺を二割増しにして、手塚が遅刻者の名を呼んだ。 「連続遅刻記録更新、おめでとう、越前」 そう言って通り過ぎた乾の言葉に、更に手塚は眉間に皺を寄せる。 「夏休みに入ったばかりならともかく、二週間も経って遅刻してくるのはお前だけだ」 「…起きられないんスよ」 ボソリと、それでも言い返してくるリョーマに、手塚は大きな溜息をついた。 「越前…」 「何周っスか?」 罰走を言い渡されるのは解っているので、そう訊いたのだが、返ってきたのは全く予想していなかった言葉だった。 「コート周りの草むしりだ」 「え?」 「グラウンドを走るだけでは、お前は堪えないから罰にならん」 そう言って、リョーマにゴミ袋を手渡した。 「ちょっ、なんでこんなの用意してんすか」 「今日も遅刻だろうと思ったのでな」 「………」 「そう思われたくなければ遅刻をなくすことだ。ほら、早く行け」 言い渡して、手塚はリョーマから離れていった。 そうなると手塚は撤回は絶対にないので、リョーマはとぼとぼとコートを出て行った。 (恋人なんだから、もう少し甘くしてくれてもいいのに) そう思いながらも、それをしないのが手塚国光だと解っているし、そういうところも含めてリョーマは手塚が好きなのだから、仕方がない。 それに、一応は自分に非があることを認めている。 (…さっさと終わらせよう) 早く終わらせようと思っていたが、思いのほか雑草は多く、遅々として進まない。 暑さに加えて、しゃがんだままの作業はかなりの体力を消費する。グランウンドを数十周する何倍も疲れていた。 すぐ側に涼しそうな木陰があるせいで、余計に暑さを感じる。 (確かにキツイな、これ…) 草むしりは、とても1日で終わるとは思えない。となれば、明日以降も罰はこれということになる。 遅刻しなければ良いのだが、実行は難しい。 「………」 気が滅入りそうになっていると、リョーマに声がかけられた。 「越前」 声の方に顔を向けると、木陰に手塚が立っていた。 「…何すか」 疲れのせいで、声のトーンが下がる。 「昼休憩だ。こちらへ来い」 言われてコートに目を向けると、そこには誰もいなかった。 ふぅと息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。 立ちくらみがないのを確認して、木陰へと足を向ける。 手塚の側まで行くと、腕を引かれて木の裏側に引っ張り込まれた。 「なに…」 リョーマが何かを言う前に、口を塞がれる。 薄く開いた唇から口内に何かが流れ込む。 コクリと飲みこむと、それは思いのほか喉を潤した。 手塚は手に持っていたスポーツドリンクを口に含み、もう一度、口移しでリョーマに与える。 飲みこんだ後も唇を離さず、舌を挿し込んで絡め合う。 十分に堪能して、ようやく唇が離れていった。 「部長がこんなことして、いいの?」 「脱水症の治療をしただけだ」 「じゃ、もう少し治療してほしいけど?」 上目遣いで見上げると、手塚がふっと表情を緩める。 「後で…な」 「後?」 「飯が先だ」 言って、足元にある物を指さした。 手塚の足元には、弁当というには大きな包みが置いてある。 「母が、お前にも…と大量に作ったからな、食べて貰わないと困る」 手塚が苦笑混じりに言うと、リョーマは瞳を輝かせる。 「彩菜さんのご飯!」 手塚の母、彩菜の作る料理はどれも美味しくて、リョーマのお気に入りだった。 「今日の昼休憩は長めにとってあるから、食べた後にゆっくりできる。準備しておくから、お前は手を洗ってこい」 「うん!」 素直に返事をして、嬉しそうに走っていく。 その姿を薄っすらと笑みを浮かべて見送って、包みを広げて用意する。 弁当の中身はリョーマの好物ばかりで、戻ってきたリョーマは更に瞳を輝かせて早速口にする。 食べ終わった後、リョーマは手塚の足を枕にして横になった。 「国光に膝枕させられるのって、俺だけだよね」 嬉しそうに言って、目を閉じる。 「リョーマ」 「何?」 「明日は遅刻するなよ」 「うん…」 と、自信なげな答が返るのに苦笑して、手塚はリョーマに口づけた。 「…さっきの続き?」 閉じた目を開いて、悪戯っぽく訊いてくる。 「これは、おまけだ」 「…国光がキスしたいだけ?」 「そうだな」 「えっ」 冗談のつもりの言葉に真面目に返事がきて、リョーマが驚いた顔をすると、もう一度口づけられた。 「今日は泊まりに来い。そうすれば、遅刻はしないだろう?」 「いいの?」 「ああ」 「じゃ、行く」 「続きは…その時にな」 その言葉に、リョーマが顔を赤くして頷く。 「疲れただろう、今は休め。時間になったら起こしてやる」 「うん…」 答えて目を閉じたリョーマから、すぐに寝息が聞こえて、手塚の顔に笑みが浮かぶ。 リョーマの頭を撫でてから、手塚も目を閉じる。 練習再開までの、今は、二人だけの穏やかな時間。 爽やかな風が、二人を熱から守るように吹き抜けていった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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