1/1ページ目 今日一日、クラスの話題は『キスの日』だった。 五月二十三日はキスの日ということで、クラスの、特に女子が盛り上がっていた。 男子生徒は少し恥ずかしそう(中には呆れて)にしていたが、女子は結構平気で話していて、聞くつもりはなかったが、アイチの耳にも当然入ってくる。 恋人にキスをしてもらうという者や、好きな人とキスできたらいいなぁと夢見ながら話す者、と様々だが、女の子にとって好きな人とのキスは憧れのようだった。 (好きな人とキス…) そう考えて、アイチの頭に浮かぶのは櫂トシキの姿だった。 (櫂くんとキス…) 話をしている女子だけでなく、好きな人とのキスはアイチだって憧れる。 だが、いつかは…と夢みることは出来ない。 (出来る訳ないよね) キスどころか、同性である自分には告白すらも出来はしない。 (でも、イメージするくらいは…許して。櫂くん) そう心の中で呟く。 現実には無理でも、イメージすることは自由なのだから。 放課後、カードキャピタルに向かっていたアイチは、途中にある公園に足を向けた。 結局、一日中キスのことを考えてイメージを膨らませてしまったせいか、何となく、櫂と顔を合わせ辛くて、心が落ち着くまで寄り道をすることにした。 以前はこの公園のベンチでよく櫂が眠っていたが、今はカードキャピタルにいることの方が多い。 だから公園に立ち寄ったのだが、何となく櫂がいつもいたベンチに目を向けて、アイチは一瞬、硬直してしまった。 (櫂くん) 櫂がベンチで横になっていたのである。 顔を合わせ辛いと思ってはいたが、久しぶりに見る姿に、アイチの足は自然と櫂に向かっていた。 (眠ってる…) 寝入っているようで、アイチが近付いても目覚める気配はなかった。 (櫂くん…) 櫂に近づく毎に鼓動が速くなる。 (今ならもしかして…) 卑怯だとは解っているが、側に寄っても気付かない今なら櫂とキスが出来るかもしれない。 (ダメ、そんな事をしたら嫌われる。でも…) 自制する心と誘惑に負けそうな心が鬩ぎ合っている。 (こんな機会は二度とないかもしれない) 結局、誘惑に負けってしまった。 それでも、櫂に嫌われてしまう恐怖は強くて、額や頬にでもキスをする勇気はなく、騎士の誓いのように手の甲にキスをしようと手を伸ばす。 その手を不意に掴まれ、強く引かれ、櫂に抱き込まれるような体勢に驚いている間に温もりが唇に触れた。 (えっ) 頭が混乱している間に温もりは離れ、体を起こした櫂にアイチは抱きしめられ、もう一度、温もりが唇に触れた。 (キス…されてる?) ようやく頭が理解した時には、温もりは離れていった。 「どうせするなら、ちゃんとしろ」 「か、櫂くん、僕…ごめんなさい」 櫂の言葉に、アイチの口から出たのは謝罪の言葉。 「何故謝る?」 「僕…眠ってる櫂くんにキスしようとした。男にキスされるなんて気持ち悪いよね、ごめんなさい」 言って離れようとするアイチを、櫂は抱きしめたまま放さない。 「…気持ち悪いと思うなら、俺の方からキスはしないだろう?」 言って、溜息をつく。 「お前はどうなんだ?俺にキスをされて気持ち悪かったか?」 「そ、そんなことない!嬉しかったよ」 櫂の言葉に、慌てて答える。 「なら、問題ないな」 そう言ってニッと笑うと、もう一度、今度はしっかりと唇を重ねてきた。 (櫂くん…) 驚きに見開いていた目を閉じて、櫂の口づけに応える。 長い口づけを終えてぼーっとしているアイチの耳元に、櫂が囁きかける。 その言葉に、アイチは真っ赤になった顔を、櫂の胸に押しつけて隠す。 そして、櫂にだけ聞こえる小さな声で 「僕も大好き、櫂くん」 そう答えたのだった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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