小説(ヴァンガード)

決して…
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 コーリンによって運ばれた場所、そこには確かにアイチがいた。
 ファイト中のイメージのような空間ではあったが、そこにいたアイチはコーリンの作り上げたイメージではなく、紛れもなくアイチ本人。
 唯一人、アイチを忘れる事のなかった櫂には、それがハッキリと解った。
 そして、そこで告げられた真実。
 全てがアイチの意志であるということ。

『君達とは会いたくない』

 それも、アイチ自身からの言葉。
(ああ、確かにお前ならそう言うだろうな)
 自分自身よりも他人を…愛する者達を大切に思うアイチならば、そう答えるのは当り前すぎて櫂でなくても容易に解ってしまうだろう。

『僕を助けようと…探そうとしないで』

 この言葉も、アイチらしいと誰しも思ってしまうだろう。
 そして、そこに隠された思いも…
「お前が…それを言うのか?」
 櫂が静かに問いかける。
「全ての罪を背負い、一人消えゆこうとしていた俺に、一人ではない仲間がいると…一人で背負いこむことはないのだと言ったお前が…」
 それに対しての答はないが、構わずに櫂は言葉を続ける。
「お前は、俺達を危険に巻き込みたくないから全てを一人で背負う覚悟で、そう言うのだろう?自分勝手な俺と違って、人を思いやるお前らしい」
 櫂の言葉は届いてはいるのだろうが、やはりアイチが答える様子はない。
「アイチ、百歩譲って家族や友人達を巻き込まない為だけなら聞き入れてもいい。だがな、俺は違う」
 言って、姿の一部しか見えないアイチを真っ直ぐに見据える。
「アイチ、お前は言ってくれたよな。俺の側にはいつもお前がいると。なのに離れてしまうのか?俺を置いて一人で行くと言うのか?」
『…』
「今度は俺が言ってやる。アイチ、お前の側には俺がいる!」
 言って、櫂が苦笑する。
「いや、少し違うか。俺が…いつもお前の側にいたいんだ、アイチ」
 その言葉に、僅かにアイチが反応したのが櫂には感じられた。

『………さようなら』

 櫂の言葉に対して返ってきたのは、別れの言葉。
 それと同時に元の場所へと戻ってきた。
「アイチ…」

 ファイトに敗れたことで手掛かりはなくなり、アイチ探しはふりだしに戻る。
 それでも、アイチの姿を確認できた事で櫂は決意を新たにする。
 それが、アイチを悲しませることになるかもしれないが、櫂はアイチを一人にはしたくなかった。大きな何かを背負っているというのなら尚の事。
(アイチ、お前が何と言おうともお前を諦めはしない。必ず、探し出してみせる)
 空を見上げると、アイチを思わせる青が広がっている。
(アイチ、俺はもう二度と、一番大切な物を見誤りはしない)
 視線を戻して自分の手を見る。
 あの時、確かに繋がった手と想い。

(もう一度この手に触れたならば、決して離さない)


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