小説(ヴァンガード)

決して…2
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 唯一の手掛かりを失い、戻ってきた櫂達は意気消沈し、その先を考えられずにいた。
 手掛かりがない今、自分達にできることは何か?
 いくら考えても、カトルナイツに負けないために腕を上げる。それしか思い浮かばない。
 それに意欲を見せたのはナオキとカムイで、特訓相手として最適だと思われる蒼龍レオンに連絡を取り、早々に了承を得た。
 その前向きさを羨ましく思いながらも、櫂はそれに参加する気分ではなかった。
 気持ちの切り替えが、上手く出来ずにいる。
 そんな状態では特訓したところで成果は上げられない。だから行くつもりはなかったが、新田シンによって半ば強行されてしまった。
 そして辿り着いたレオンの住む島は、爽やかな風が吹き、気持ちの整理をするには最適な場所だった。
 積極的にファイトを繰り返し、レオンに課された難題をクリアしたナオキとカムイは何かを掴み、決意を新たにした。
 そんな中、櫂は未だに揺らいだまま。
 レオンとのファイトで魂の抜けたデッキ、と言われたが、ブラスターブレードの抜けたデッキでは、そう言われても仕方がない。
 レオンに課題を出されはしなかったが、櫂はじっと海を見つめていた。どこまでも広がる水平線を眺めていると、永遠にアイチを探し出すことが出来ないような気にさえなってしまう。
 ブラスターブラードを取り上げられ、アイチとの繋がりを絶たれて、櫂は進む道を見つけられずにいた。
(どんなことがあろうとお前を見つけ出すと決心したはずなのに、こんなにも簡単に揺らいでしまう…)
 八方塞な現実を前に、櫂は一歩を踏み出せない。
(弱いな、俺は…)
「アイチ…」
 無意識に、その名を呼ぶ。
(バカになれたら、楽だっただろうな)
 ただひたすらアイチを助ける事だけしか考えられないバカになれたら、こんなにも悩む事は無い。
 もちろん、それだけでは探し出すことは出来ないだろうが、立ち止まることもしないだろう。
「………」
 ブラスターブレードを封じられたアイチの気持ちが、今になって理解出来る。
(あの時、アイチは一人で…)
 今の櫂には、状況を理解し共に戦う仲間がいる。
 だが、あの時のアイチには誰もいなかった。たった一人で戦い、そして勝利した。
(強いな、アイチは)
 もちろん、悩むことも躓くことも諦めそうになったことも多々あるだろう。それでも、足を止めることはなく、一歩ずつ前に進んでいった。
 その時のことだけではなく、いつでもアイチは自分の思いを貫いて前へと進む。
 今回の事にしても、それが正しいかどうかは別にして、アイチは自分の意志を貫いている。
(何故、お前はそんなにも強くあれるんだ?)

『櫂くんがいてくれるから』

「!」
 アイチの声が聞こえた気がして辺りに目を向けるが、当然、どこにも人影は無い。

『櫂くんがいるから…』

「アイチ」
 姿はないが、声は聞こえる。
 それは、櫂のイメージの中の声なのかもしれない。
 自分に都合の良いイメージなのかもしれないが、今の櫂には必要だった。

『櫂くんがいるから、今の僕がいる』

 その言葉は、そのまま櫂にも当てはまる。
 櫂にとって転機となる出来ごとには常にアイチが関わっていて、アイチがいなければ今の櫂もいない。

『櫂くんがいなければ、僕は僕じゃいられない』

「ああ」
 以前の、アイチと再会する前の櫂ならば、その言葉は否定するだけだっただろう。今は否定など出来ない。それは櫂も同じ、いや、アイチよりもその想いは強いかもしれない。
「お前がいなければ、俺はヴァンガードを続けることすらなかったかもしれないな」

『そうなの?』

「ああ。お前のいないヴァンガード人生など考えられない。それほど深くお前は俺の中に入り込み、俺の一部となっているんだ」
 それは紛れもない真実。
 今まで敢えて考えず、目を逸らしてきた想い。
「俺は、お前がいなければ何も出来ない…」
 苦々しく本音を吐き出す。

『櫂くん言ってくれたよね、前に進んでいれば道は必ず交わるって』

 それは、勝てずに悩み焦っていたアイチに櫂が贈った言葉。
 今思えば、それは随分と重い言葉だと思う。
 ただ前に進む。
 それだけの事が、こんなにも難しい。
 それでも…

『その言葉、今度は僕が贈るよ』

 それでも、立ち止まることは許されない。
 立ち止まれば、そこで全てが終わってしまうのだから。
「そうだな。例え、どんなに回り道をしたとしても、進んでいればいずれは辿り着く」
 真っ暗闇で手探りでも、進めば必ずどこかに辿り着く。
 幸いな事に、アイチの周りにいるのは害を加える者達ではない。
「アイチ、お前がどれほど拒もうと、俺は俺であるためにお前を探し出す」

『その方が櫂くんらしいよ』

 そう改めて決意した櫂の手には、かげろう。
 共に戦わずとも、ロイヤルパラディンのユニット達は櫂を見守ってくれるだろう。
 アイチが櫂を見守るように。
(…そうか。お前はいるんだな、俺の側に)
 物理的な距離は離れていても、心は常に側にある。櫂がアイチを諦めてしまわない限り、アイチが消えてしまうことはない。
「アイチ、俺達の道が交わったら、その時は」

『うん、その時は…』

 それを最後にアイチの声が消える。
 言葉を最後まで聞く事は出来なかったが、櫂に迷いはもうなかった。

「道が交わったら、どんなにお前が俺を拒絶したとしても、決して離しはしない。お前の為ではなく、俺自身のために」
 随分と自分勝手な言葉にも思うが、それが、櫂が前に進む為の原動力となる。
 アイチは自分の為に誰かが傷つくことを善しとはしない。だから、櫂は自分の為に行動する。自分に必要だからアイチを探し出す。そのことに文句は言わせない。

「手加減はなしだ。覚悟しろ、アイチ」
 ファイナルターンを宣言した時のような不敵な笑みを浮かべる。

『受けて立つよ』
 そう言って苦笑するアイチが、櫂の脳裏をよぎっていった。

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