小説(ヴァンガード)

先導者は神様!?2
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「それ、ちょっと貸してくれ」
 アイチがギュッと握ったままのプレートを指さす。
「はい」
 大事なプレートだが、言ったのが櫂なのであっさりと差し出した。
(何するんだろう?)
 櫂の力を間近に見ていたので、今度は何があるのかワクワクして見つめる。
 プレートを受け取って、よく聞こえないけれど櫂は何かを呟いている。
 その呟きに合わせるように、蔦のような飾りがプレートを囲み、細く伸びて繊細な鎖になった。
「わぁ…キレイなペンダントになった」
 ただの四角いプレートだったのが、櫂の力によって繊細な細工のペンダントとなった。
「あれ?」
 よく見ると、プレートの向かって右上、身につければ左上になる場所に何かがあった。
「ドラゴン?」
 草の上で体を休めているような、竜の細工。
 表情がある訳ではないが、何故か穏やかな印象をアイチは持った。
「よくわかったな。どんな風に見える?」
「ん〜スヤスヤとお昼寝してるみたい」
 それを聞いて、櫂が嬉しそうに笑う。
「そっか。ちゃんと解ってるんだな」
「?」
 櫂の言葉の意味は解らなかったが、嬉しそうに笑っているのでアイチも笑顔になる。
 ペンダントとなったプレートを、櫂がアイチの首にかける。
 今のアイチには少し大人っぽいデザインだが、とてもよく似合っている。
「キレイだね」
 プレートに枠と鎖、もしくは鎖だけをつけてペンダントにして身につけるのは一般的で、特に珍しいことはないのだが、こんなに繊細な細工のペンダントは見た事はなかった。
「ありがとう、櫂くん」
 ペンダントに加工してくれたこと、首にかけてくれたことに礼を言ってすぐ、アイチの小さなお腹が鳴った。
「あ…」
 お腹が鳴ったことにアイチが顔を赤くし、櫂が吹き出した。
「櫂くん!」
「悪い、もう昼ごろだし、腹が減ってもおかしくないよな」
 そう言いながらも笑っている。
「もうっ」
「悪い悪い。アイチ、お前何も持ってきてないのか?」
 アイチは身一つで、お弁当や飲み物を持っているようには見えなかった。
「うん。いつもはお腹すいたりしないから…」
 アイチは朝から晩までここにいるが、今まで一度も空腹になったことがない。家では一応食べるのだが、とても小食だった。精神的に疲れていて余裕がないせいで、食欲というものが全くなかった。
「じゃ、何か食べる物探してくる」
「え、いいよ。食べなくても平気だし…」
「ダメだ。そんなに細っこいんだから食べなきゃな。俺のを探すついでだから、気にするなよ」
「…うん」
「すぐに戻るから、ここで待ってろよ」
 言って森の奥に走っていった。
「いっちゃった…」
 その姿はあっという間に見えなくなり、静寂が戻ってくる。
「なんだか寂しいね」
 側にいるういんがるの頭を撫でながら呟く。
 この場所に一人でいて寂しいと感じたことは今まで一度もなかった。それなのに、ほんの少し櫂が離れただけで寂しさを感じてしまう。
 寂しさに気付かない程、アイチはずっと一人だった。
(櫂くん…)
 それから暫くして、櫂が戻ってきた。
「待たせたな」
「ううん、そんなに待ってないよ」
 実際に、櫂が側を離れていたのは三十分にも満たない。
「すごいね…沢山見つけてきたんだ」
 櫂の手には、数種類のキノコと果物があった。
 それと、何故か大きな葉。
「この葉っぱ、どうするの?」
「これはキノコに使うんだ」
 言って、果物とキノコを下に置いて、櫂はキノコを葉で包んでいく。
 包んだ物を持って湖横に少しだけある砂地に向かう。
(何するんだろう…)
 櫂のすることに興味津々で、アイチもついていく。
 砂を掘って包んだキノコを並べて置き、上に砂をかけて蓋をして、並べたキノコを囲うように砂に円を描く。
「あとは、この円の中で火を焚けば終わり」
「火を?でも、どうやって…」
 自分もそうだが、櫂を見ても火を熾せるような物は持っていない。
 それ以前に、森で火を熾すのは厳禁なのだが、それは頭にないらしい。
「火を作ることの出来るものをよぶんだ」
「火…ドラゴン?」
「それじゃ、森まで燃えちまう」
 火=ドラゴンと思うのは一般的で当り前のことなのだが、小さな火を熾すのには向いていない。
「手のひらを上に向けて、両手をそろえて出してみろ」
「うん」
 言われた通りに、アイチが両手をそろえて櫂の前に差し出す。
 その小さな手のひらに、櫂の手が重なる。
「目を閉じて」
「うん」
 櫂に言われたままに目を閉じる。
「何かあったかい…」
 重ねた手の温もり以外のものを感じて、アイチが呟いた。
「何か見えるか?」
「うん、何か赤い…火…かな?ランプみたいな小さくて暖かい火」
 アイチの言葉に櫂の顔に笑みが浮かぶ。
「そうか。それじゃ、目をあけて」
 言われてそっと目を開けると、手の上に何かがいた。
「とかげ?」
 全身が赤くて、たてがみのようなものがあるトカゲ。
 よく見ると、それはたてがみではなく、炎だった。
 炎を纏っているが、熱くは無い。
「これって、火トカゲ?」
 実物を見た事はないが、なんとなくそう思って訊いた。
「ああ。小さいやつだけどな。火の精のひとつだ」
「へぇ〜」
 精霊が存在することは知っているが、実際に見たのは初めてだった。
「アイチがよんだんだ」
「僕が?」
 櫂の言葉に、アイチが驚いた顔をする。
「そう。ちょっと手は貸したけど、イメージしたのはアイチだ。それに応えてこいつは現れたんだ」
「僕のイメージ…」
「ああ、イメージは力になるんだ」
「力に?」
「そう。まぁ、誰にでも…ってわけじゃないけどな。精霊もえり好みするし」
 言って苦笑いする。
「?」
「そいつ、円の中に置いて」
「あ、うん」
 火トカゲをそっと円の中に降ろす。
「あ、火が…」
 円の中央で、火トカゲの纏う炎が少し大きくなった。
 そのまま、その場でじっとしている。
「可愛いね」
「そうだな」
 それから数分、二人は何を話すでもなく火トカゲをみていた。
「そろそろだな。こいつを帰してくれ」
「どうやって?」
「特別な方法はない。帰ってほしいと考えるか話しかけるかでいい」
 正確には、帰すにはそれなりの力が必要なのだが、今説明しても混乱するし面倒なのでしない。
「わかった。やってみる」
 応えて、火トカゲの正面に膝をついて座り込む。
「あのね、もういいんだって。帰ってもらっていいかな?」
 アイチがそう口にすると、炎を一度揺らして火トカゲが消えた。
「上出来」
 そう言ってアイチの頭をポンと叩いて砂に手を伸ばす。
「あ、熱いよ!」
 素手で火トカゲのいた砂をどけようとしている櫂に、慌てて声をかける。
「大丈夫だ。普通は熱いが、呼び出した人間には熱くないんだよ」
 言われて、恐る恐る砂に触れてみる。
「本当だ、熱くない…」
「でも、中に入ってる物は熱くなってるから気をつけろよ」
 言って、キノコを包み込んだ葉をアイチに手渡した。
 受け取ったそれは、葉が熱を吸収してくれているのか、思ったほど熱くはなかった.
 葉を広げると、熱で一回り小さくなったキノコから白い湯気が立ちのぼり、とても美味しそうに見えた。
「やけどしないように気をつけて食えよ」
 言いながら、櫂がキノコを裂いて口に入れる。
 アイチも息を吹きかけて冷ましながらキノコを裂いて、口に入れた。
「おいしい!」
 何の味付けもしていないのに、少し甘みがあって、とても美味しかった。
「この森のキノコは特に美味いんだ。いっぱい食べろ」
「うん!」
 普段はあまり食べないアイチだが、美味しさに食が進み、あっという間になくなった。
「おいしかった〜」
「沢山食べたな。ほら」
 採ってきた果物の皮を剥いて、アイチに渡す。
「ありがとう」
 受け取って口にする。
「これもおいしい!」
 幸せそうに笑って食べるアイチを見ていると、櫂も自然と笑顔になる。
「何だか楽しいね、櫂くん」
「ん?」
「僕、誰かが側にいて楽しいって思ったの初めて。一人じゃないって嬉しいことなんだね。櫂くんみたいに優しくしてくれる人って今までいなかったから、知らなかった…」
「アイチ…」
 今まで名のなかったアイチは、大人には無視され、側に寄ってくるのはからかう事を楽しむ子供だけ。普通に接してくれるのは家族だけで、他人に優しくされたことは一度もなかった。
「そうだな。俺も誰かとこんな風に一緒にいるのは初めてで楽しいな」
「櫂くんも一人?」
「ああ。俺は親の顔も知らないからな」
 それは、唯一愛してくれる家族がいないということ。
 アイチとは違い、からかったりいじめられたりされることは無かったが、親しく声をかける人間も殆どいなかった。
(ああ、そうか…俺は寂しかったんだな…)
 櫂も一人でいる時間が長すぎて、アイチ同様に寂しさに気付かなかった。心の底では気付いていたのかもしれないが、子供でいてはいけない、という小さなプライドがそれに蓋をしていた。
 アイチと出会ったことで蓋が外れ、素直な感情が表に顔を出す。
(やっぱり…アイチと出会うために、俺はここに来たんだな)
 そっとアイチを見ると、何か考え込んでいるようで、手が止まっていた。
(俺のせいか)
 自分の言葉が原因で考え込んでいるのが解って、声をかけようとした。
「アイ…」
「じ、じゃ、僕が櫂くんの家族になる!」
 名を呼ぼうとして、その言葉に固まってしまう。
「お前、何言って…」
「そうすれば、僕も櫂くんも一人じゃなくなるし、寂しくないよ」
 言って、無邪気に笑うアイチに、櫂が溜息をつく。
(絶対に、意味はわかってないよな)
 アイチは子供で、その言葉に深い意味はないと解っているが、期待してしまった自分に脱力する。
 櫂も子供であるのだが、普通の子供とは少し違っている。
「そうだな。寂しくないな」
「うん!」
 本当に嬉しそうに笑うアイチの隣に移動して、柔らかい頬にキスをする。
「約束だ」
「約束だね」
 答えて、アイチも櫂の頬にキスをする。

(大人になっても、その言葉をくれよ。アイチ)


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