小説(ヴァンガード)

先導者は神様!?3
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「なぁ」
「何?櫂くん」
「アイチは学校…行ってるのか?」
「…ううん。夜に家で教えてもらってる」
 答えて、少し寂しそうな顔をする。
 今まで名前がなかったのだから、学校には行きにくいのだろう。
「でも、十五歳になったら士官学校に行かなきゃならないんだけどね」
「ああ…」
 惑星クレイでは、十五歳になると士官学校へ入ることが出来る。強制ではないが、上流階級の者はそれが義務のようなものだった。もっとも、上流でなくても殆どの者が入学している。
 一応入試はあるが、その成績で入学が決まる訳ではなく、受験した全員が入学できる。
 試験結果は、受講クラスの振り分けに反映されるのだった。上級クラスの方が色々な面で有利になる為、勉強するのだった。
「それじゃ、俺がこっちにいる間、ここで勉強するか?」
「えっ」
 その言葉に、アイチが櫂の顔をじっと見る。
「嫌か?」
 聞かれて、慌てて首を振る。
「ううん、嬉しい。けど…いいの?」
「ああ。こっちにいるのはあと一年くらいだから、その間だけになるけどな」
「うん、それでもいい、ありがとう櫂くん!」
 言って、櫂に抱きついた。
 そのアイチの背をポンポンと叩く。
「早速明日からするか?」
「うん」
「じゃ、今日は帰ろう。俺も準備しなきゃならないし」
「え、もう?」
 帰るという言葉に、アイチが不安げに顔を上げる。
「もう名無しじゃないんだから堂々と出来るだろ?」
「…う、うん」
「ほら、もっとしゃんとしろ!俯いたままだと名前も輝かないぞ」
「?」
 その言葉に、アイチが首を傾げる。
「プレート、よく見てみろ」
 言われて、胸あたりに下がっているプレートを見ると、淡い光を放っていた。
 光といっても、暗い場所でようやく判るくらいのものだったが…
「光ってる?」
「ああ。お前が強くなる度に光も強くなる。それは、アイチだけの光だ」
「そうなんだ…」
 それを聞いて、アイチの顔に笑みが浮かぶ。
(僕の光…)
 今はまだ陽の下では判別出来ないような弱々しい光。それでも、アイチにとっては宝物のように眩しい光だった。
(この光を消してしまわないように、前を向いて頑張らなきゃ)
 そう決意すると、ほんの僅か光が強くなった気がした。
「そろそろ行くか」
「うん」
 櫂の言葉に、今度は戸惑う事なく立ち上がる。
「またね、ういんがる」
 側にいたういんがるに声をかけると、ういんがるは一声鳴いて、森の奥に消えた。
 ういんがるの姿が見えなくなるまで見送って、二人は森を出て行った。

 街に戻ると、丁度授業が終わって学校から帰ってきた子供たちがいた。
 アイチを見て、ヒソヒソと何かを話している。
 大人も、珍しく昼間に外にいるアイチに目を向ける。
 前を向こうと決心したものの、皆の視線を感じて俯いてしまう。
「アイチ」
 俯いて、足が止まってしまったアイチを、櫂が大きな声で呼んだ。
 その声に驚いて、顔を上げる。
(下向いてたから、怒っちゃった?)
「な、何?」
 怒らせたかもしれない、と、声が少し震える。
「アイチの家、どこだ?」
 対する櫂の言葉は家の場所を訊ねる物で、怒らせた訳じゃないとわかってホッと息をはく。
「あ、この先を左に行ったところ」
「城の右側か」
 城から見て右に位置する地には、広大な敷地を持つ貴族が多く住んでいる。
「アイチって大貴族なんだな」
「僕じゃないよ。お父さんとお母さんと妹が大貴族なんだよ」
 言って、また俯いてしまう。
 家に迷惑をかけるだけの自分は、貴族だなどと名乗る資格はないと思っているから否定する。
「何言ってんだよ、アイチもそこの子供なんだろ。妹が貴族なのに自分は違うなんておかしいだろ」
「そ、そう…だよね」
「そうそう。アイチは間違いなく貴族だよ」
 言って、ポンポンと頭を叩く。
 やさしく頭を叩かれて、もう一度顔を上げる。
「ありがとう、櫂くん」
「何、礼なんか言ってんだよ、アイチ」
 答えて櫂が笑う。
 つられて、アイチの顔にも微かに笑みが浮かぶ。
 そして気がついた。
 自分に向けられている視線が先程までと違っていることに。
 異質な者を見るような視線から、驚きのような視線に変わっていた。
「?」
「どうした?アイチ」
「なんでも…」
 ない、と続けようとして、もう一つ気がついた。
 櫂が自分に話しかける時、必ず名前を付けている事。名前を強調していることに。
(櫂くん…僕に名前があることがわかるようにしてくれてるんだ)
「ありがとう、櫂くん」
 気がついて、アイチは自然な笑顔を櫂に向けた。
 その言葉の意味に気付いて、櫂もニッと笑う。
「当り前なことに礼なんていらねって。ほら」
 言って、アイチに手を差し出す。
 それにアイチは少しだけ戸惑って手を重ねると、ギュッと握られた。
 それが嬉しくて、更に笑顔になる。
 櫂がゆっくりと歩き出す。
 それに合わせて、アイチも歩き出す。
 顔を上げて、しっかりと前を向いて歩く。

 胸のプレートが、またひとつ輝きを増した。


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